【STORY3】家にいるような安心できる食堂でありつづけるために 石川宏さん、新藤一博さん(JICA東京 食堂/東京ビジネスサービス株式会社) | 日本国内での取り組み – JICA

-「わたしらしく」生きていると思うのはいつですか?-
相手もハッピーになるはずだから- 左)石川宏さん
私らしさを料理に表現できたとき- 右)新藤一博さん

(注)感染対策を実施したイスラエル取材を行っています。撮影時のみマスクを外しています。

JICAは、海外での国際協力だけでなく、日本国内に開発途上国の人材を招いて、技術や知識の共有を図るなどの研修員受入事業を行っています。 3回目は、JICA東京の食堂で、研修員たちにとって大切な存在として慕われている石川宏さん、母国から遠く離れて奮闘している研修員に朝・昼・晩の食事を提供する新藤一博さんの人間力を紹介します。

JICA東京の中にある「食堂」の役割とは

母国を離れて学ぶ研修員は、短いものでは1週間程度、長いものでは2年以上日本に滞在します。これまでJICA東京では120か国以上の開発途上国から、年間約4,000人(2018年度実績3,768人)の研修員を受け入れてきました。

研修員は、JICA東京に到着してこれからの生活の拠点となる部屋に荷物を置いて、「JICA東京食堂」を訪れます。 国を代表しているという思いやこれから始まる研修に緊張の面持ちの彼らを満面の笑みで迎えのが、食堂で研修員たちからお父さんと慕われている石川宏さん。

今日の食事をしながらの出来事を話す関係性

一日の中で、人が一番真剣になるのは何をしているときだと思いますか-。JICA東京の食堂で長年、接客を担当し続けてきた石川さんに伺いました。

「何を食べようかなとか、食べ物について考えるときほど、一日の中で真剣に悩む時間はありません。食こそ一番大切だと思います。だから食事のときは肩の力を抜き、安心できて、楽しい時間であってほしいって」と石川さんは言います。隣から来たのかを聞き、自分のアタマの中にある引き出しからその国の「言葉」を引き出して、笑顔で「こんにちは、元気?」と声をどこに掛けます。 すると緊張していた研修員は、母国語で挨拶をされて真っ直ぐ明るい笑顔になり、会話を返してくれるようになります。

各テーブルを回り食の進んでいない研修員には、「なんでこれを食べないの?」と声をかけることもいいです。

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ホテルのレストランやバーのホールで経験を積み、16年前にJICA東京の食堂へ。

「コロナ禍による渡航制限もあって国内での研修が制限され、それが長く続くうちにアタマの引出しにも鍵がかかってしまいます。今は、いつお客さまが戻ってきてもいいように書いた各国言語のメモを見直しています。引き出しの鍵は開けられないと」と石川さん。

研修員も、フィリピンの家族に日本のお父さんを紹介したいからと、写真を石川さんと一緒に撮ったり、夕食時に「ただいま」「おかえり」と挨拶を交わしたりして石川さんのことを慕っています。

気持ちよく働くための疲れない体づくり

石川さんは、JICA東京の食堂にいることになったとき、大変だから自分のこれまでの経験を残さず活躍できる場となるのではと奮闘し、結果として、自分が食堂で一番仕事を楽しんでいると笑います。

「ここは僕のステージだと思います。ゲストの心を満足させることまではできないかも知れませんが、満足に決めたいと思っています。バックヤードから表に出たとき、ここはステージだと気持ちを切り替えていますね。自分が楽しく働けることで、皆さんにも素晴らしいお食事をしていただけるはずです」

趣味のマラソンで疲れない体を作ることが、楽しく働くことの原動力と石川さんは言います。

「マラソンをしているときは、アタマが軽くなります。空っぽになったアタマに次のアイデアが湧いてくるんです。メニューにカロリー表示したらどうとか、研修員に聞きそうなハラール食材(注1)を売っている場所を調べておこる「うとか。すっきりして次の日に備えられますし、マラソン始めてから、ああ今日は疲れた、そんなことはなくなりましたね」。研修員も「一緒にそのへんを走らない?」「手始めに体育館で走らない?」と声をかけているそうです。

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研修員が短期・長期の期間を過ごす間、ほぼ毎日会うことになる石川さんは、「英語での会話になりますが、言ってもわかってもとっさに返ることができないこともありますし、それぞれに国の言葉がありますから、基本的におたがいのニュアンスで会話をしています」と笑います。

石川さんにとってこの仕事で一番嬉しいことは何かと質問しました。

「来日して1週間後も健やかに研修に取り組んでいる姿を見るときです。しっかりと食事を摂ってくれているんだと思われますから。食べないと何もできないからね」とお父さんのように優しく見守っています。

(注1)イスラム教を信じるム スリムが食べてよい食材

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JICA東京の食堂は一般の方も利用することができます。 昼食時は、お目当ての海外の伝統的な料理や豊富なメニュー、何より美味しくて安心する味を求めて、多くのお客さまが食堂を訪れます。

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豊富なメニューには、「ハラールチキン」「ハラールビーフ」「ベジタブル」「フィッシュ」などイラストのわかりやすい説明が添えられています。

家に帰ってきたような食堂であるために

研修員が着席していると、石川さんをはじめとするホールのスタッフが、ほかほかの料理をそのままテーブルで運べます。

切り盛りするのが、主任の新藤一博さん。食堂全体のマネジメントを担当し、厨房で腕をふるうことも、ホールに立つこともあります。 基本的にメンバーは、朝も昼も夜も、そして2週間以上、食堂で食事を摂ります。 「提供できればいいなと思います。日本食でも、関東と関西の味や、家庭によっても違うので、完璧にストライクな味つけをお出しするのは難しいですが、きっとほっとするような味付けにしています」。 新藤さんが作るのは、気取らない家庭料理の味で、盛り付けにもこだわりが感じられます。

新藤さんが所属する東京ビジネスサービスは、全国にあるJICA拠点のいくつかの食堂を運営しています。 新藤さんは25年前に入社し、のべ20年を超えてJICAの食堂にとてもてきました。

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新卒で配属された波筑センターに始まり、市ヶ谷の地球ひろば、横浜センターのJICAの食堂での勤務を経験し、途中、市役所の食堂を担当したり本社で経営を始めて、2017年からJICA東京の主任を務めている新藤さん。

ホテルの料理人だった、いとこのお兄さんにあこがれて飲食業に慣れた新藤さんでしたが、JICAの食堂はいろいろな国からのお客さまを迎えるため、宗教上の食事の制限をクリアした特殊な料理も提供していました。

これ和食であっても、イスラム教徒が食べても安全な醤油や味噌を使いましたり、調理器具自体もハラル食専用と今日ないものを使っています。

滞在中の研修員の母国料理や話題を意識した料理を提供し続ける

「現在滞在している研修員の様子を石川さんから聞いて、『うちの国の料理を出してよ』と言われる前にお出ししたいと思いますし、JICAのスタッフから情報を聞いたり、話題にのぼったメニューを考えたりします」

新藤さんは、心休める食事の時間に食堂で一息ついてもらうためには、自分が得意な国の料理ではなく、どんな国の料理でもオールマイティにお出しできなくても大丈夫と言います。

20年ほど前の年末年始、アフリカからやってきたウヌさんという研修員が、筑波センターに単独で滞在されることになり、新藤さんがひとりで朝・昼・晩と食事を提供したことがあったそうです。とだけ言われ、それなら調理法は任せてもらおうと、腕をふるったそうです。食事が終わるとすぐにカウンターに来て、家族団らんの雑談のように、テレビは好きかなど、たわいない会話を毎日、毎食後、彼としたそうです。

新藤さんは、「調理で一番大切にしていることは、よい意味で好き勝手にすることです。JICA東京での調理は決められたレシピや宗教上の理由によって、材料や作り方、調味料などある程度決められているのですが、それらをふまえたあたり、調理法や味つけ、盛り付けを工夫して自分の色を出すことを楽しんでいます」と優しい笑顔で話します。

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「各国の料理は、手間がかかることもありますが、日本だと彩りとして使う野菜を味付けに使うなど、作るの発見や楽しさがそれぞれあります」と新藤さん。

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筑波センターの先輩に「この国の人が滞在しているのですが、いい料理はどうか」と聞いたり、所属会社の多国籍レシピからアイデアを得たり、年間育児週替わりでいろいろな国のメニューを提供しています。 取材日のランチセットは3種類。豚肉ときのこのカルビソース炒め、ご飯・味噌汁。そのほかにもCランチセット:(ハラル対応食)鶏肉とシメジのグリーンココナッツカレー、ミニサラダ、スープ。

三上良さん(JICA東京食堂/東京ビジネスサービス)

25年ほど前からJICA東京の食堂に務めています。当時も今も研修員が母国の民族衣装を着て閉講式に出席する姿は本当にきれいです、国を代表しているという誇りをもって来日していることがわかります。その研修員が食堂を初めて訪れるときは、緊張した面持ちで入ります。 「朝から夜まで使える挨拶の言葉?」とひたすらメモを取っている姿も見ますし、メニュー表記の仕方の変更を提案するなど、お客さまのことをいつも考えているのがわかります。

新藤さんは、私たちスタッフの業務が議事に進めよう考えてくれて、一応ソフトに接してくれます。柄が出ているのか、盛り付けもきれいでかわいいですし、料理も優しいお味なんですよ。

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JICA東京の食堂は、JICA東京の1Fにあり、正面入口から入って利用することができます。週間メニューはウェブサイトで確認することができますので、ぜひチェックしてみてください。

プロフィール

石川宏 いしかわ・ひろむ

東京ビジネスサービス株式会社所属。

新藤一博 しんどう・かずひろ

東京ビジネスサービス株式会社所属。「JICA東京食堂」主任。「いろいろな国のお客様お客さま」という特異な環境の中で、時々各地の料理に使うスパイスを求めてアメ横や新大久保まで出たり、都内にある各国の料理店へ食事に出たり仲間たちと議論を交わしながらレシピ開発したり、「お客さまに一息つける食事と場を提供するため」に日々奮闘している。