花饽饽(ファーバオボー)が蒸し上げる、ほっこりとした「幸福の味」

山東省魚台県には、舌で味わうだけでなく、目で楽しむ芸術品ともいえる美食があります。それが、精巧な造形と縁起の良い意味を持つ「花饽饽(ファーバオボー)」です。

花饽饽は「花饃」や「麺塑」とも呼ばれ、その多様な形状と吉祥を表す寓意から、広く愛されています。2009年には、その製作技法と民俗が山東省の無形文化遺産に登録されました。

花饽饽の工房に足を踏み入れると、豊かな麦の香りが漂っています。職人の程雅娟さんが、集中して生地を練っています。ありふれた小麦粉の塊が、彼女の手によって、捏ね、伸ばし、揉み、形作られるという一連の動作を経て、わずか十数分で、生き生きとした寿桃、躍動感あふれる獅子、吉祥の象徴である龍や鳳凰などへと姿を変えます。

さらに、色付けの工程にもこだわりが見られます。工房では天然素材を使った着色にこだわり、ホウレン草の汁で鮮やかな緑色を、南瓜のピュレで温かみのある黄色を、紅麹で煮出した汁で祝い事にふさわしい赤色をそれぞれ生み出しています。

花饽饽は、それを取り囲む場面によって、実に多様なデザインが用意されています。旧正月(春節)には「年年有魚」(年々豊かであること)を願って魚の形を、子供の満歳の祝いには健やかな成長を願って愛らしい獅子を、新学期の始まりには学業成就を願って「状元帽」(科挙首席合格者の帽子)の形を模すなど、その形はさまざまです。これらの多様な花饽饽は、伝統文化と日常生活を見事に結びつけ、人々の思いを伝える大切な媒体となっています。

小さな花饽饽は、舌を楽しませる味覚の芸術であると同時に、文化を伝承する懸け橋でもあります。小麦粉という素材を基に、職人の技と心を筆として、伝統の技と美しい祈りを小さな一塊の生地に封じ込めた花饽饽は、今や魚台県が誇る、輝く文化の名刺となっています。