2020年度の東京ビジネスデザインアワード(TBDA)で優秀賞を受賞しました。ブラックライト印刷を実施した恐竜のシールを部屋に貼り、子どもが見つけて遊びながら学ぶというもの。商品化には課題も多く、企業とデザイナーの「人と人をつなぐコミュニケーションを実現する」という強い想いで乗り越えました。
結局「これしかない」
――日本ラベルは今年(2023年)で創業42年目ですね。
平山 はい。 裏面にペーストのついた印刷物を得意として展開してきました。 その前身は曾祖父が立ち上げた平山秀山堂という会社で、まだ値札というものがなかった時代に、アラビアペーストをした塗布シールを日本流通させてたんです。日本ラベルとして再スタートし、ラベルやシールの印刷を主力としながら百貨店業界や有利店、最近では食品会社などと取引しています。 ペースト付きのプライスシールもあれば、ペーストのないプライスカード、あるいはバックヤードで使うための「取り扱い注意」ラベルなど、お客様の多様なニーズに応えてきました。
――日本ラベルならではの特徴は何ですか?
平山 裏面にペーストを塗布する特殊印刷はもちろん、その後の加工まで様々なや技術を考えています。そのためお客様に提供できる機械出力の種類が多く、ほとんどのニーズには応えられると自負しています。
当社オリジナルの技術としては、ペットボトルなどに貼って貼られるアテンションシールと剥がせる二層シールを組み合わせた「アテンション二層シール」などがあります。他にも最近は環境問題に注力していて、印刷する時に出る残紙やゴミを100%リサイクルし、次の資材を作るときの燃料などにしています。環境を守るためにFSC(Forest Stewardship Council)認証も取得しました。

株式会社日本ラベル 専務取締役 平山雄太
――一方、SANAGI design studioの二人はなぜ日本ラベルのテーマに興味を持ったので質問します。
井下 日本ラベルの提案募集の中に「人と人をつなぐコミュニケーションを実現する」という言葉があって、チャレンジングな響きがあって面白いそうだなと感じました。
増谷 今まであまり意識していなかったけど、シールってその辺を回って本当にたくさんあったのかなって。 シールで新しいコミュニケーションを作れることができないかと思ったんですよね。
平山 実は、他にもいくつか提案があってSANAGI design studioの「化石みっけ」はあまりピンときていませんでした。 子どもと大人のコミュニケーションを謳歌しているけど、その商品で本当に楽しく遊べるのかわからないです。

SANAGI design studio デザイナー 井下

SANAGI design studio デザイナー増谷
――審査委員からはどんなアドバイスもございました。
平山 最初はシールとライトだけのセットでしたが、「絵本も加えたほうがいい」とアドバイスをもらいました。 恐竜が生きていた背景や、どんな土地で化石が発掘されたのかなど、子どもにとって学びの要素を入れたら商品として面白いになるのではないかということでした。
こだわりの詰まった商品開発
――受賞後、どのように商品化を進めていきたいと思います。
井下 「化石みっけ」というパッケージ商品を構成するシール、ライト、絵本という大きく3つのプロダクトを開発しなければいけません。どれかひとつでもコケたら商品にならない。
平山 シールについては、ブラックライト印刷の存在は知っていましたが、弊社での経験はありませんでした。 実際に試してみてインクが上手く取れなかったり、色々な問題があって。
井下 ライトは、コストを重視するメーカーの規格品に合わせて外径などを決めていきました。 特に難しかったのは光の範囲照射です。 照射範囲が広すぎると、壁に貼ってあるシールが全部見えてしまう。
増谷 照射範囲のほんのわずかな違いで、遊びとしての楽しさがわかります。難しいと恐竜を見つけるのに20分くらいかかってしまいます。
平山 ライトの製造は老舗メーカーにお願いしました。SANAGI design studio との図面の端を横で見ていましたが、「こんなに細かい図面もらったのは初めてだ」とびっくりしていましたね。
井下 面取りまでコンマ単位で指定しましたからね。 「化石みっけ」は子ども向けの商材あるが、「子どもを忘れないようにしよう」とみんなで話していたんだ。


――絵本についてはいかがでしょうか。
平山 板橋区は「絵本の街」と呼ばれるくらい、絵本の印刷会社や製本会社が集まっています。
井下 本機補正も終わって、製版も終わって、立ち会いして、あがってきたものを見たら、「は?」くらいの紙が光っていました。
増谷 その後も、背景の地をベタからモザイクパターンに変更したりしました。ベタの背景ではブラックライト印刷の箇所が目立ちます。
平山 最後の最後までこだわりましたよね。 そのまま印刷すると恐竜の図柄が強く出てしまうので、その上から透明のニスを温めて、その存在感を弱めたり。 他にもパッケージや説明書も含めて、10を超えるアイテムを製品化していくのは苦労の連続でした。
――それをやり遂げたモチベーションがあるのです。
平山 当時代表だった私の父(平山良一氏)が、2021年9月に新型コロナウイルス感染症で他界しました。 TBDAに参加した当初から一緒に「化石みっけ」に挑戦し、「これを日本のラベルに新しい一歩チャレンジしていこう」と熱く語りあっていたので、私の中で「必ず実現させたい」という想いがたくさんありました。スタジオの二人に親身に相談に乗っていただきながら、ひとつひとつクリアしていくことができました。
しっかりB to Bを考えて
――クラウドファンディングの決意はどうでしたか。
平山 まずオンラインでの通販を開始し、今は書店への流通も少しずつ始まっています。 この商品は、「ライトで絵が上がる」ところまではイメージしやすいのですが、「大人が部屋の中にシールを貼って、子どもがそれを探す」という体験の面白さを伝えるのがなかなか難しいです。 展示会に出展するなど、実際に手で触って見てもらえる機会を増やしているところです。
井下 博物館のミュージアムショップからの引き合いも多く、実際に置いてもらえることが増えてきました。 さらに「このシールの技術を使ってテーマパークの展示をしたい」という相談もありました。B to Cの商品がB to Bまで続いていくことが嬉しいです。
――これからの展望について教えてください。
平山 この仕組みを活かして「化石みっけ」の二作目や、比較と新しい商品作っていきたいと思っています。その前に、今はとにかく「化石みっけ」の楽しみ方を多くの人に知ってもらうため、ワークショップやイベントなどを積極的に展開していきます。先日も、図書館で私が「先生」になってワークショップをやらせてもらって、子どもたちと遊びました。

――最後にTBDAに参加した感想や、成功の秘密を教えてください。
平山 TBDAに参加したことで最も刺激になったのは、プロのデザイナーからアイデアを聞きながら、「私たちでもこんなことができた」と教えてもらったこと。視界がすごく広がりましたし、B to Cの商売を学ぶスタート地点に立つことができました。社内でも新しいことに取り組むための前向きな姿勢ができて、会社の雰囲気も変わりつつあると実感しています。
増谷 成功の秘訣は「熱意」だと思います。平山さんをはじめ日本ラベルの皆さんから「何かをしたい」という気持ちがすごく頑張って、また、それを実現するためにたくさん動いてくれました。商品化は大変だったけど、一緒に仕事をするのがとても楽しかったです。
井下皆さんが頑張ってくれているから、私たちも期待以上の働きをしたいという思いでした。 成功の秘訣は「お互いを尊敬する」ことではないです。
――ありがとうございました。
(写真:辻井祥太郎)
株式会社日本ラベル https://www.nihon-label.co.jp/
SANAGIデザインスタジオ https://sanagidesign.com/
化石みっけ https://kasekimikke.com/
東京ビジネスデザインアワード
https://www.tokyo-design.ne.jp/award.html










